金融業界を変える次世代コミュニケーション:RCSがもたらす信頼と顧客体験の向上

スマートフォンが私たちの生活に深く根差した今、企業と顧客のコミュニケーションも進化が求められています。特に高い信頼性とセキュリティが求められる金融業界において、従来のSMSやメール、アプリといった手段には、それぞれ限界も見え始めています。
この記事では、次世代のメッセージング規格として注目されている「RCS(Rich Communication Services)」が、金融業界のビジネスコミュニケーションにどのような変化をもたらし、どのような可能性を秘めているのかを、具体的な海外事例を交えながら解説します。
目次
なぜ今、金融業界で「RCS」が重要なのか?

長年、金融機関からの重要な通知や本人確認にはSMSが広く使われてきました。その最大の利点は、携帯電話番号だけでほとんどのユーザーにメッセージを届けられる「高い到達率」と「開封率」です。しかし、SMSにはいくつかの課題があります。
まず、テキスト情報しか送れないため、多くの情報を伝えたり、視覚的に分かりやすく説明したりすることが困難です。また、送信元が電話番号のみで表示されることが多く、誰からのメッセージなのか一目で判断しづらいため、ユーザーは不審なSMSに警戒心を抱く可能性があります。近年増加しているフィッシング詐欺の多くもSMSを悪用しており、金融機関からのメッセージへの信頼性が損なわれかねない状況です。
一方、メールは多くの情報を送れますが、開封率がSMSほど高くない場合があり、大量のプロモーションメールに埋もれて重要な情報が見過ごされるリスクがあります。金融機関の公式アプリもリッチなコミュニケーションが可能ですが、ユーザーにアプリをインストールしてもらう手間がかかることが導入の障壁となることがあります。
ここで活用したいのが、「RCS」です。RCSは、SMSを大きく進化させたメッセージング規格です。スマートフォンに標準搭載されているメッセージアプリ上で利用できるため、ユーザーは新しいアプリをダウンロードする必要がありません。そして、SMSにはない様々な「リッチな機能」を備えています。
RCSの持つ力:金融コミュニケーションにおけるメリット
RCSの機能は、金融業界が抱えるコミュニケーションの課題に対し、有効な解決策を提供します。
- 公式アカウントによる「信頼性の向上」:RCSでは、企業ロゴや正式名称を表示した「公式認証アカウント」からメッセージを配信できます。さらに、プロバイダー(通信キャリア等)による審査を通過したアカウントには認証バッジが付与されるため、受信したユーザーはメッセージの送信元が「本物の金融機関」であることを一目で確認でき、安心して開封できます。これは、フィッシング詐欺への対策として非常に強力な機能です。
- リッチコンテンツとインタラクティブな「分かりやすさ」:RCSはテキストだけでなく、高解像度の画像、動画、複数の商品や情報を横にスライドして表示できるカルーセル、そして「〇〇について問い合わせる」「手続きに進む」といった具体的なアクションを促すボタン(提案された返信/アクションボタン)をメッセージに含めることができます。 これにより、例えばローン商品の詳細を画像付きのカルーセルで紹介したり、手続き方法を解説する短い動画を添付したり、住所変更の手順をボタンでナビゲートしたりするなど、従来のSMSでは不可能だった視覚的に分かりやすい情報提供が可能になります。複雑な金融商品や手続きの説明において、ユーザーの理解度を大きく高める効果が期待できます。
- メッセージ内完結の「顧客体験向上と効率化」:RCSのボタン機能やチャットボット連携を活用すれば、ユーザーはメッセージアプリから離れることなく、様々な手続きや問い合わせを行うことができます。 例えば、残高照会、利用明細の確認、振込、ローンのシミュレーションや申込、住所変更の手続きなど、これまでWebサイトへの誘導やコールセンターへの電話が必要だった作業の一部を、RCSメッセージ上での簡単なタップや応答で完結させることが可能です。これはユーザーにとっての利便性を大幅に向上させるだけでなく、金融機関側にとってもコールセンターへの問い合わせ集中を防ぎ、業務効率化とコスト削減につながる可能性があります。
- 高いエンゲージメントとコンバージョン率:これらのリッチな機能とインタラクティブ性、そして公式アカウントによる信頼性の組み合わせは、ユーザーのメッセージに対する関心(エンゲージメント)を劇的に高めます。海外の多くの事例で、RCSメッセージはSMSと比較してメッセージの開封率、クリック率(CTR)、そして最終的な申込や購入といったコンバージョン率が大幅に向上することが報告されています。金融商品・サービスの案内や申込促進において、高い効果が期待できます。
関連リンク:RCSとは?特徴やSMSとの違い、活用事例を解説
https://kddimessagecast.jp/blog/sms/241210/
海外金融業界におけるRCS活用事例
実際に金融機関がRCSをどのように活用し、どのような成果を上げているのか、具体的な事例を見てみましょう。
- Axis Bank(インド):インドの大手銀行であるAxis Bankは、銀行サービスのデジタル化の一環としてRCSチャットボットを導入しました。ローン申込、クレジットカード請求額確認、定期預金管理などを、ユーザーが標準メッセージアプリ上で対話形式で行えるようにしました。その結果、2,000人以上のユーザーがRCSチャットボットを利用するようになり、RCS経由での対話から派生したローンやカードのクロスセル(追加申込)機会が全体の45%にも増加しました。これは、顧客接点の拡大とセルフサービス促進において、RCSが大きな貢献を果たした事例です。
参照:発見からコンバージョンまで: Axis Bank が RCS で成長への道を模索
https://developers.google.com/business-communications/rcs-business-messaging/success-stories/axis-bank?hl=ja
- Fintonic(スペイン):スペインのフィンテック企業Fintonicは、アプリをダウンロードしたユーザーに対し、銀行口座連携を促すキャンペーンでRCSを活用しました。特に、金融機関を信頼していないユーザーの懸念に対応するため、視覚的に魅力的なコンテンツでセキュリティに関する情報などを提供しました。インタラクティブなメッセージングを提供した結果、同時に実施したSMSキャンペーンと比較して、RCSキャンペーンのコンバージョン率は2.5倍にも向上しました。RCSのコンバージョン率は15%だったのに対し、SMSは6%、メールやプッシュ通知は約5%でした。信頼構築が重要な金融サービスにおいて、RCSのリッチな表現力と信頼性の高さがコンバージョン率向上に貢献したことを示しています。
参照:Fintonic boosts conversions and achieves user trust with RCS campaign in Mexico.
https://jibe.google.com/success-stories/fintonic/?hl=ja
- BankBazaar(インド):インドのオンライン金融マーケットプレイスであるBankBazaarは、既存顧客のエンゲージメント向上やアプリ利用促進のためにRCSを利用しました。アプリやクレジットスコアチェックを宣伝するメッセージをRCSで配信したところ、以前のSMS施策と比較してクリック率(CTR)が130%も向上しました。これも、リッチコンテンツによる訴求力の高さがユーザーの関心を引きつけた結果と言えるでしょう。
参照:BankBazaar: 130% higher CTR with RCS Business Messaging
https://www.infobip.com/customer/bankbazaar
これらの事例から、RCSが金融業界において、顧客エンゲージメントの向上、クロスセル機会の増加、コンバージョン率の改善、そしてセルフサービスによる効率化に繋がることが明らかになっています。
RCS導入における考慮事項と日本の現状


RCSは多くのメリットをもたらしますが、導入にあたっては考慮すべき点もあります。全てのユーザーがRCSに対応しているわけではないため、メッセージがRCSで送信できない場合にSMSに自動的に切り替える「フォールバック機能」が不可欠です。また、RCSはその機能を発揮するためにデータ通信が必要であり、電波状況が悪い場所やデータプランに制限があるユーザーには影響する可能性もありますが、フォールバック機能があればメッセージ不達は避けられます。
国内においては、主要キャリアが連携した+メッセージが普及しており、RCSの基本的な機能は利用可能です。しかし、企業がより高度なブランディングやインタラクティブ機能、そして様々なシステム連携を求めてRCSをビジネス活用するには、対応したメッセージ配信サービスが必要となります。
KDDI Message Castは、現在も高い開封率を持つSMSや+メッセージの配信サービスとして、金融機関を含む多くの企業に利用されています。携帯電話番号リストを活用し、二段階認証、重要通知、料金督促などに活用されています。Salesforceなどの既存システムとのAPI連携にも対応しており、配信管理や効果測定を一元化できる点も強みです。
KDDI Message Castが今後RCS配信に対応すれば、現在提供している「携帯電話番号による高い到達率」や「既存システムとの連携」といった強みに加え、以下のようなRCSのメリットが融合される可能性があります。
- 画像やボタン、カルーセルなどを活用した、より分かりやすく、顧客の興味を引きやすいメッセージ表現。
- ボタン操作による返信や手続きをメッセージ内で完結できる、スムーズな双方向コミュニケーションと業務効率化。
- RCS非対応端末や受信できない状況でも、自動的にSMSに切り替えて送信する強固なフォールバック機能による、最大のメッセージ到達率確保。
これにより、金融機関は、例えば重要なお知らせを公式アカウントからリッチコンテンツで確実に伝達したり、契約更新や住所変更などの手続きをメッセージ上のボタン操作で簡単に完了させたり、ローン商品の詳細を画像付きのカルーセルで魅力的に紹介し、そのまま申込ボタンへ誘導したりといったことが、一つのプラットフォーム上で実現できるようになるでしょう。これは、顧客体験の抜本的な向上と、業務プロセス全体の効率化・高度化に繋がる大きな可能性を秘めています。
まとめ:RCSで金融コミュニケーションの未来を拓く
RCSは、SMSの持つ「確実な到達」という強みと、アプリのような「豊かな表現力と双方向性」を兼ね備えた、まさに次世代のビジネスコミュニケーションチャネルです。特に金融業界においては、公式アカウントによる信頼性、リッチコンテンツによる分かりやすさ、インタラクティブな操作性による利便性向上といった点が、顧客満足度、エンゲージメント、そしてビジネス成果(コンバージョン、クロスセル、効率化)の向上に大きく貢献することが、海外事例からもわかります。
RCSのエコシステムはAppleの対応開始などにより急速に拡大しており、その波は確実に日本にも訪れています。
今後、KDDI Message Castのような国内の大手メッセージ配信サービスがRCSに対応することで、日本の金融機関も、高い信頼性と到達率を維持しながら、より豊かでインタラクティブな顧客コミュニケーションを標準メッセージアプリ上で実現できるようになる日が来るでしょう。
RCSは単なるメッセージング技術の進化ではなく、金融機関と顧客の関係性をより強固にし、デジタル化された金融体験をさらに進化させるための強力なツールとなり得ます。
ぜひ、貴社におけるコミュニケーション戦略において、RCSがどのように活用できるか検討を始め、今後の国内プロバイダーの動向にご注目ください。
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