金融業界のIT化とは何?DX推進の現状や課題、実現するための施策や活用事例を解説

低金利の長期化や異業種からの参入など、厳しい競争環境に置かれている金融業界では、IT化による業務改革が急務となっています。あらゆる業界でDXが推進されるなか、金融業界でもIT化の重要性を認識し、新たな価値創出を実現したいという傾向が生まれています。
しかし、DX推進は決して簡単なことではありません。この記事では、金融業界でIT化が求められている理由や現状の課題を解説し、DX化を実現するためのポイントを成功事例とともに紹介します。
目次
そもそも「IT化」と「DX」(デジタルトランスフォーメーション)とは

IT化とDXは混同されがちですが、その目的は異なります。IT化とは、ITツールを導入して既存業務の効率化やコスト削減を図る取り組みです。例えば、紙の書類を電子化したり、手作業の業務をシステム化したりすることが挙げられます。
一方、DX(デジタルトランスフォーメーション)は、IT化をさらに進めた概念です。スウェーデンのウメオ大学教授によって「人の生活にデジタル技術が浸透することで引き起こされる影響や変化」として提唱されました。ビジネスにおいては、デジタル技術の活用によって製品・サービス・ビジネスモデルを変革し、新たな価値を創出して競争上の優位性を確立することを指します。単にITを導入するだけでなく、ITやデータを活用して伝統的なやり方を抜本的に変化させることがDXの本質です。
経済産業省も日本でのDX推進に取り組んでおり、「DX銘柄」(DX推進に向けた取り組みを展開し、優れた実績が表れている上場企業)を2020年から選定して公表しています。金融業界でもDX銘柄に選定されるケースが見られるようになってきました。今後のデジタル時代を生き抜くには戦略的なIT化を通じてDXを成功させることが不可欠となっています。
金融業界でIT化・DXを推進する必要性
金融業界は、IT化やDXの積極的な推進が強く求められる環境にさらされています。ここでは近年の金融業界やITの動向を踏まえて、なぜDXが必要なのかを解説します。
デジタルディスラプターの脅威にさらされている
金融業界はデジタルディスラプターによって存続が危ぶまれる状況にさらされています。ディスラプターとは「破壊者」という意味です。デジタルディスラプターとはAIやIoT、クラウドサービスなどの新しいデジタル技術によって業界構造を抜本的に破壊してしまう企業やサービスを指します。Uberはデジタルディスラプターの典型例で、タクシーサービスやデリバリーサービスの概念を大きく変革させました。
デジタルディスラプターは金融業界にも次々に登場する可能性があります。窓口取引よりもオンライン取引を希望するユーザーが増えてきました。ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産やステーブルコインも広まり、デジタル化による業界構造の変化が起こるリスクが高くなっています。
「2025年の崖」への対策が必要
金融業界では2025年の崖を乗り越える対策をしなければサービスが瓦解するリスクがあります。2025年の崖はITシステムの今後の運用リスクについて示した概念です。ITが広がった初期にシステム導入をした企業ではシステムやサーバーの維持管理をするのが困難になる恐れがあります。ITエンジニアの不足が著しくなるだけでなく、レガシーシステムを運用できるエンジニアが減っていくからです。ベンダーによるサービス停止のリスクもあるため、早急な対応が求められています。
生産性向上が求められている
IT化による生産性向上が求められているのも金融業界でDXが必要な理由です。現代は少子高齢化が進んでいて、ビジネスの生産性向上が強く求められる時代です。金融業界でも業務に必要な人材を確保するのがだんだんと厳しくなってきました。生産性向上のためにDXを推進するのは社会的責務を果たすという意味でも重要になっています。
消費動向や働き方が変化している
顧客・従業員の両方の満足を確保するためにはDXが欠かせません。スマートフォンの普及や国による働き方改革が進む最中に、新型コロナウイルスによるパンデミックが起こったのが大きな原因です。消費動向や働き方の意識が変化して、オンラインサービスの利用やリモートワークのニーズが高まっています。ニーズに応えられるIT化が金融業界でも必要です。
金融業界のIT化における課題と他業界との違い
業界全体として抱えている課題は業界ごとに異なります。金融業界は他業界とは何が違うのかを紹介します。
IT業界との違い
IT業界ではDXを推進できる有能なエンジニアを獲得し、新しい価値観を生み出せるサービスを構築することが大きな課題になっています。特にBtoBビジネスでは競合他社との差別化をして優位性のあるサービスを生み出し続けていかなければならず、生存競争が厳しくなっています。金融業界のDXではIT企業との連携・提携が不可欠であるため、取引先の選定が大きな課題になります。
製造業界との違い
製造業界では高度化が進むITに対応できるエンジニアを確保し、IoTやAI、VRやARなどを生かした独自の製品開発を推進するのが課題です。有能な組み込みエンジニアの採用が難しいといった人材不足の課題を乗り越えなければDXは実現できません。金融業界でもDX人材の獲得の課題はありますが、金融やビジネスにより強い人材の採用が必要になります。
商社・卸売業界との違い
商社・卸売業界ではサービスの差別化とコスト削減が課題です。同じ商品を取り扱う競合他社が多い中で、優位性を出せなければビジネスが成り立たなくなるからです。金融業界でもほとんど同じサービスを提供している競合が多い中で差別化戦略が必要という点では同じです。ただ、金融業界では多数の顧客対応にかかるコストが大きいのに対し、卸売業界はBtoBなので顧客管理コストが低いので解決すべき課題が違います。
金融業界でのIT化・DX推進の取り組み例
ふくおかフィナンシャルグループではDX推進によってDX銘柄2023に選ばれました。ユーザーニーズを捉えたデジタルバンク「みんなの銀行」を日本の銀行の中で初めて立ち上げてデジタルビジネスとして成功させた点が評価されています。レガシーシステムにとらわれずにデジタル技術を生かしたビジネスモデルを積極的に取り入れた地方銀行グループでも有数の事例です。
参照:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023」に2年連続選定|株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
りそなホールディングスはデジタルとリアルの融合を目指してデジタル技術の取り入れを初期からスタートしていました。オープン・イノベーション共創拠点として「Resona Garage (りそなガレージ)」を設けて取り組みを続け、API連携によって多彩なサービスを一元管理で提供できる金融デジタルプラットフォームを構築・運用して効率的な運営を実現しています。この取り組みを受けてりそなホールディングスはDX銘柄2023に選定されています。
参照:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023」の選定について|ニュースリリース|りそなホールディングス
関連リンク:業界別のDX事例15選 DXが各業界にもたらす影響や変化とは
金融業界でIT化が進んでいる背景
金融業界で大きなIT化の取り組みが進められているのは収益モデルの改善にDXが有効だからです。BtoCの部門では人件費に対する利益が低いのが共通課題です。金融業界では多数の顧客に対して窓口やメール、電話などで対応しなければなりません。個人ユーザーの中には“普通預金をしているだけ”という人もいますが、それでも全てのユーザーに平等に良質な顧客対応をして満足度を向上させることが信頼獲得のために欠かせません。
顧客対応のコストの課題が大きかったため、IT化によって顧客対応の負担を軽減する動きが早期から始まりました。低金利政策によってローンによる利益を得にくい状況も続いているため、人件費削減の方法としてIT化が進められてきています。
金融業界のIT化・DX推進をするためのポイント

ここでは金融業界を取り巻く課題の解決になるIT化・DXを推進するために必要なポイントを紹介します。
デジタル人材を確保する
IT化・DX推進にはデジタル人材が不可欠です。レガシーシステムを入れ替えて2025年の崖に対応するにも、デジタル技術による新しい金融ビジネスを考案・構築するにも専門の人材が必要です。常に新しい技術にアンテナを張り、経営課題や業務課題に対して具体的なデジタル戦略を立てて推進できるDX人材を獲得しましょう。
また、有能なデジタル人材の確保と並行して、社内のデジタルリテラシーの教育も進めていき、本格的なDXを進められる基盤を整えることが理想的です。
クラウドシステムを導入する
金融業界にとって、クラウドシステムの導入はとても効果的です。クラウドを使うことで、オンラインでの顧客サービス提供や、従業員のリモートワークをサポートするシステムを簡単に構築できます。また、インターネットバンキングのサーバーとしても利用でき、会社の主要なシステムや社内コミュニケーションツールもクラウドサービスとして使えます。クラウドシステムは導入コストが低く、導入までの期間も短いため、IT化を進める上で非常に優れた選択肢です。
電子化・ペーパーレス化の実現
書類の電子化によるペーパーレス化は金融業界で大きなコスト削減と業務効率化につながります。契約書類などの書類の取り扱いが多い業界だからです。電子契約が認められる時代になったため、契約書などをすべて電子化してオンライン対応をすると人的コストを削減できます。書面の印刷・郵送・保管管理などのコストも削減できるため、中長期的に見ると費用対効果の高い取り組みになるでしょう。
変化を受け入れる
金融業界ではDXになるような大きな変化を起こす改革を敬遠する傾向があります。しかし、ITの技術の進展は著しく、IT化を進めなければ他の金融機関に置いて行かれるリスクがあります。レガシーシステムにこだわる必要はないという認識を社内に定着させ、変化を受け入れて新しい価値を生み出していく企業文化を育むのが成功のポイントです。
セキュリティ・ガバナンスを強化する
セキュリティ・ガバナンスの強化は金融業界でIT化を推進するうえでは欠かせません。セキュリティ・ガバナンスとは内部統制による情報管理のトラブルが起こらないようにするための体制整備です。顧客情報の漏えいが、ITシステムの脆弱性ではなく、従業員が原因で起きてしまうと、顧客からの信用は著しく低下するでしょう。内部統制を徹底して従業員による情報漏えいリスクを低下させ、財務や労務などにも支障がないように努めるのが大切です。
オープンAPIを活用する
オープンAPIの活用は、金融サービスの革新や顧客体験の向上には不可欠といえます。API(Application Programming Interface)は、自社のシステムや機能を外部のサービスと連携させるための仕組みです。金融機関が口座情報や決済機能などをAPIとして公開することで、FinTech企業をはじめとする外部事業者は、それらの機能を活用した新しいサービス(例:家計簿アプリ、資産運用ツールなど)を開発できます。これにより、顧客は多様な金融サービスをシームレスに利用できるようになり、金融機関は新たな収益機会の創出や、サービス領域の拡大が期待できます。
顧客体験(CX)の向上を追求する
DXの最終的な目的は、新たな価値を創出し、競争優位性を確立することです。そのためには、デジタル技術を活用して顧客体験(CX)をいかに向上させるかという視点が欠かせません。例えば、オンライン手続きの簡素化、パーソナライズされた情報提供、迅速かつ安全なコミュニケーション手段の確保など、あらゆる顧客接点において体験価値を高める施策が、DX成功の鍵を握ります。
金融業界の業務課題を解決するならSMSの活用がおすすめ
DX推進のポイントである「顧客体験の向上」において、SMS送信サービスは極めて有効なツールです。スマートフォンが普及し、オンラインでの取引が主流となるなか、SMSは顧客との重要かつ迅速なコミュニケーションを実現します。また、顧客に迅速にメッセージを伝えられるだけでなく、口座開設などの手続きの際に二段階認証の手段としても活用できます。IT化が進む現代で最新の対応を行える技術基盤になるため、SMSの導入はおすすめです。
【金融業界における具体的なSMS活用シーン】
- 本人認証(SMS認証): 口座開設や重要手続き時の二段階認証で、セキュリティを強化。
- 重要通知: 取引完了通知、引き落としの事前連絡、不正利用の警告など、確実性が求められるシーンにおける連絡。
- 督促・リマインド: ローンの返済日や手続きの期限を通知し、遅延を未然に防止。
- マーケティング: キャンペーン情報や新商品の案内を、高い開封率でターゲット顧客にリーチ。
関連リンク:SMS(ショートメッセージ)送信サービスの銀行(金融機関)での活用ケース
法人向けSMS送信サービスなら「KDDI Message Cast」
金融業界でSMS送信サービスを使うならKDDI Message Castがおすすめです。KDDI Message Castは顧客への個別送信も一斉送信もできるSMSサービスで、国内キャリアの回線を使っており、到達率が高いのが特徴です。SMS認証にも対応しているので、金融業界の本人確認におけるセキュリティ強化にも有効活用できます。初期コストゼロですぐに導入できる魅力的なSMS送信サービスをぜひご活用ください。
まとめ
金融業界のDXは、単なる業務効率化に留まらず、顧客体験を向上させ、新たな価値を創出することで競争力を獲得する重要な取り組みです。「2025年の崖」が目前に迫るなか、デジタル人材の確保やオープンAPIの活用と並行して、顧客とのコミュニケーション変革を進めることが求められます。その具体的かつ効果的な施策として、SMSによる顧客対応やSMS認証の導入は、始めやすいDXの第一歩となるでしょう。
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