小売業界のDXとは?成功事例や課題、メリットを解説

近年、消費者ニーズの多様化や人手不足など、小売業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした状況を打開する鍵として「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が注目されていますが、具体的に何から始めるべきか悩む方も多いでしょう。
本記事では、小売業界の現状と課題を整理し、DXがなぜ解決策となるのかを解説します。さらに、DXの進行状況や具体的なメリット、先行企業の成功事例、そして推進すべき戦略・施策の例まで、幅広くご紹介します。
目次
小売業界の現状と課題とは
かつて新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、私たちの生活に大きな影響を及ぼしました。特に小売業界への影響は大きく、その後も物価高や人手不足、消費者のライフスタイルの変化など、厳しい状況が続いています。
東京商工リサーチの調査によると、2025年8月の小売業の倒産件数は94件で、前年の同月と比較して18.9%増加しました。これは3ヶ月連続で前年を上回る水準です。特にEC(電子商取引)などを含む「無店舗小売業」では競争が激化し、2024年には倒産件数が過去最多を記録するなど、淘汰が進んでいます。
こうした厳しい状況下、小売業界が生き残るには新たな改革が不可欠です。その1つとして、DX推進が挙げられます。現状としては小売業界全体でDXの導入が遅れている傾向にあり、業界全体がアナログな対応を行っています。例えば、小売業界におけるバックエンド業務には受発注や検品、請求など煩雑な作業が多いですが、これらの業務を人間の手で1つずつ行っている企業も少なくありません。
小売業界の課題解決には“DX”が最適

小売業界が抱えている課題を解決するにあたってDX(Digital Transformation)の推進をおすすめします。DXとは日本語でデジタルトランスフォーメーションと称し、企業がITやデジタルを活用して経営課題を解決する他、新たなビジネスの創出を目指していこうという概念です。
現代社会では消費者の価値観が多様化している他、消費者にはさまざまな選択肢が与えられているため、企業にとって同業他社間の競争が激化しています。そのため、従来の方法ではこれまでのように利益を上げることが困難に。
一定以上の利益を継続的に出すためにはITやデジタルを駆使し、同業他社との差別化を図る他、独自のビジネスの展開が求められています。今や、顧客から選ばれるサービスを提供するにはITやデジタルが不可欠といえるでしょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?DX推進のメリットと課題も解説
小売業界でのDXの進行状況
小売業界のDXは、単なるデジタルツールの導入に留まらず、ビジネスの根幹に関わる領域で進行しています。特に「サプライチェーン」「マーケティング」「インフラ整備」の3つの領域で、それぞれ重要な変革が進められています。
サプライチェーン領域
サプライチェーンは、商品の企画・製造から物流、販売、消費に至るまでの一連の流れを指します。この領域におけるDXは、各プロセスのデータを連携・分析することで、需要予測の精度を高め、在庫の最適化やコスト削減を実現します。これにより、機会損失を減らし、収益性を向上させることが可能です。流通全体を見渡した最適化は、小売DXの重要なテーマです。
マーケティング領域
ECサイトの普及により、顧客の購買行動に関する多様なデータを取得できるようになりました。マーケティング領域のDXでは、これらのデータを分析し、顧客一人ひとりのニーズや嗜好に合わせたパーソナライズされた情報提供やプロモーションを行います。顧客理解を深めることで、より効果的なコミュニケーションを実現し、顧客との長期的な関係構築を目指します。
インフラ整備領域
サプライチェーンやマーケティングのDXを推進するには、社内に分散したデータを統合し、全部門が連携できるインフラを整備することが不可欠です。 部門ごとにデータが孤立する「サイロ化」を解消し、全社でデータを横断的に活用できる基盤を構築することで、迅速で正確な意思決定が可能になります。これは、組織全体のDXを成功させるための土台となります。
小売業界におけるDXの成功事例を紹介
ローソン
ローソンは、店舗運営の効率化と省人化を目的としたDXを積極的に推進しています。全店に導入済みのAIによる半自動発注システムで食品ロス削減と販売機会の最大化を図る一方、そのDX戦略を象徴するのが、KDDIと共同で2025年に高輪ゲートウェイシティ内に開業した「Real×Tech LAWSON」です。
この店舗は、人とテクノロジーが融合した「未来のコンビニ」像を提示しています。顧客体験の面では、AIカメラが客の行動を解析して最適な商品を推薦するサイネージや、専門スタッフに遠隔で暮らしの相談ができるブースを設置。業務運営の面では、飲料陳列や清掃、調理を支援するロボットを導入し、従業員の負荷を大幅に軽減します。さらに、店内のデータからAIエージェントが業務効率化を支援。単なる省人化に留まらず、テクノロジーが従業員をサポートすることで、より温かみのある接客や新たな顧客体験を創出し、人手不足という社会課題に対する持続可能なモデルケースを構築しています。
参考元:KDDIとローソン、TAKANAWA GATEWAY CITYに「Real×Tech LAWSON」1号店をオープン
三越伊勢丹
三越伊勢丹は、「デジタルと人の力の融合」をテーマに、上質な顧客体験の提供をDXで追求しています。特筆すべきは、専門のスタイリストとオンラインで繋がる「リモートショッピング」サービスです。ビデオ通話やチャットを通じて、店舗にいるかのようなパーソナルな接客を提供し、顧客一人ひとりのニーズに応えています。また、足の3Dスキャンデータから最適な靴を提案する「YourFIT365」など、デジタル技術を活用して店舗での体験価値を向上させる取り組みにも注力しています。
参考元:どこにいてもリモートショッピングが楽しめるお買物スタイル|三越伊勢丹グループが取り組む新しい価値の創出|事業内容|株式会社三越伊勢丹ホールディングス
無印良品
無印良品のDX戦略の中核を担うのが、自社アプリ「MUJI アプリ」(旧「MUJI passport」)です。このアプリは単なるポイントカードや在庫確認ツールに留まりません。顧客の購買データや行動履歴、レビューなどを収集・分析し、その結果を新商品の開発や既存商品の改善に直接活かしています。顧客を巻き込んだデータドリブンな商品開発サイクルを確立することで、顧客とのエンゲージメントを深め、ブランドへのロイヤルティを高めることに成功しています。
参考元:顧客をつなぐ MUJI passport「良品計画」
ユニクロ
ユニクロは、RFID(無線自動識別)タグの全商品への導入により、サプライチェーン全体の改革を実現しました。RFIDタグによって、商品の入庫から在庫管理、販売までの流れが瞬時にデータ化され、棚卸し作業の大幅な効率化と在庫精度の飛躍的な向上を達成。この技術は、顧客が商品をカゴごとレジ台に置くだけで一括会計が完了する「セルフレジ」にも活用されており、待ち時間のない快適な購買体験を提供しています。
参考元:ユニクロとAvery DennisonがRFIDを使ってイノベーションを起こす
IKEA
IKEAは、AR(拡張現実)技術を活用したアプリ「IKEA Kreativ」で、家具購入における顧客の課題を解決しています。この機能を使うと、スマートフォンのカメラを通して自宅の部屋に実物大の家具をバーチャルで配置でき、サイズ感や部屋との相性を購入前にリアルに確認できます。これにより、購入後の「イメージと違った」というミスマッチを防ぎ、顧客満足度の向上と返品率の低下に繋げています。都心型店舗とオンラインストアを連携させたオムニチャネル戦略と並行し、デジタル技術で購買体験そのものを革新しています。
参考元:イケア、AIを活用した理想の空間をデザインできるデジタルツール「IKEA Kreativ/イケア クリアティーヴ」を日本でも導入
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小売業がDXを推進するメリット
小売業がDXを推進することには、多くのメリットがあります。業務効率化やコスト削減はもちろん、顧客体験の向上や新たなビジネスチャンスの創出にも繋がります。ここでは、DXがもたらす4つの主要なメリットについて解説します。
コスト削減
DX推進は、作業時間と人件費の削減に直結します。 例えば、これまで手作業で行っていた受発注や在庫管理、請求書発行といった業務をシステムで自動化することで、作業時間を大幅に短縮できます。これにより、従業員の残業時間を減らし、人件費を抑制することが可能です。また、手作業によるヒューマンエラーを防ぎ、修正対応にかかる無駄なコストや時間の削減にも繋がります。
適切な人材配置
単純作業や定型業務をデジタル技術に任せることで、従業員をより付加価値の高い業務に配置転換できます。 例えば、接客、商品企画、マーケティング戦略の立案といった、人の創造性やコミュニケーション能力が求められる業務にリソースを集中させることが可能です。これにより、従業員のモチベーション向上やスキルアップを促し、組織全体の生産性を高めることができます。
顧客満足度の向上
DXは、企業側のメリットだけでなく、顧客体験の向上にも大きく貢献します。 例えば、ECサイトやアプリで店舗の在庫をリアルタイムに確認できれば、顧客は無駄足を踏むことがなくなります。 また、セルフレジやキャッシュレス決済の導入は、会計時の待ち時間を短縮し、ストレスフリーな購買体験を提供します。 このような利便性の高いサービスは顧客満足度を高め、リピート利用の促進に繋がります。
データドリブン経営による意思決定の精度向上
DXによって収集・蓄積された多様なデータを分析することで、これまで経営者の経験や勘に頼りがちだった意思決定を、客観的な根拠に基づいて行えるようになります。 売上データや顧客データ、市場のトレンドなどを分析し、需要予測や販売戦略の精度を高めることが可能です。データに基づいた的確な経営判断は、ビジネスの成功確率を高め、持続的な成長を実現するための重要な基盤となります。
小売業界が推進すべきDX戦略・施策の例とは
施策・戦略① OMOを実践する
昨今、多くの企業がオフラインとオンラインのいずれも活用して商品を販売しています。この方法は、顧客に複数のチャネルからアクセスしてもらえるため効果的です。ただし、各チャネルを個別に機能させているのであれば、そのメリットを十分に発揮することは難しいでしょう。
そこでおすすめの施策がOMO(Online Merges with Offline)です。OMOはオンラインとオフラインを融合して、ユーザーがチャネルの相違を気にせずにシームレスな購買体験を行える方法です。
ユーザーにとって満足のいく購買体験を提供することで、顧客満足度の向上、リピート促進、売上拡大などのメリットを得られます。
施策・戦略② ECサイトを展開する
小売業がオンラインでの販売窓口も設けることで、多くの顧客のニーズに応えるかたちで商品を販売できます。
例えば、店舗の営業時間に足を運べない顧客はオンラインショップを利用して商品を購入できます。また、店舗のないエリアに住んでいる顧客はオンラインストアを活用することで、商品を問題なく購入できるでしょう。
その他にも、店舗と組み合わせた販売戦略を実施することで、顧客の購買意欲を高めることもできます。
施策・戦略③ 店舗運営の効率化を図る
小売業は人手不足や長時間労働などといった課題も抱えています。例えば、バックオフィス業務はスキマ時間や営業時間の前後に行わなければならないことが多く、スタッフにとって負担になることもあります。
ITやデジタルを活用して在庫管理や受発注、顧客管理などを自動化することで、スタッフの負担を軽減できるでしょう。特に、お客様への入荷連絡や予約のリマインド、スタッフ間の業務連絡といったコミュニケーションの非効率さは、見過ごされがちな課題です。電話のすれ違いやメールの見落としを防ぎ、確実かつ効率的に情報を伝える手段として、SMS(ショートメッセージサービス)の活用も有効な一手となります。また、これらの業務を自動化することで、人間の手作業で生じやすいミスを回避できる効果もあります。
OMOの具体例を紹介
ECサイトとの連動、およびデータの統合
ウォルマートやIKEAなど、店舗とECサイトを連動させる企業が年々増えています。店舗で目にした商品をECサイトで購入できる、ECサイトで購入した商品を店舗で受け取りできるというように、店舗とECサイトを連動させる方法もあります。
また、データの統合を行えば、店舗とECサイトで購入する顧客の特徴をそれぞれ洗い出すことができ、集客方法や今後の店舗展開を考える上で役立ちます。
その他にも、データを連動することで店舗とオンラインにおいて接客状況の共有が可能です。
SNS集客
比較的手軽、かつすぐに取り入れられる方法としてSNSが挙げられます。近年、小売業のマーケティングにおいてSNSの活用はもはや不可欠となりつつあります。多くの消費者がSNSを利用しているため、SNSは商品の宣伝や情報の発信などに効果的です。
顧客に郵送で各種情報を届けるよりも低コスト、かつ大人数にアプローチできます。
決済の多様化
近年、決済の方法は多様化しています。現金やクレジットカードといった従来の方法だけでなく、スマートフォン決済などさまざまです。
顧客は想定していた方法で支払えないことが会計時に分かれば、購入をあきらめてしまうかもしれません。そうなると、せっかくの販売の機会を逃してしまうことに。
現金やクレジットカードといった従来の方法だけでなく、QRコード決済や電子マネーでの支払いにも対応できるようにしておく必要があります。
オンライン接客
近年、オンライン接客を導入する企業が増えています。オンライン接客を導入すれば、顧客は店舗に出向かなくても商品を確認したり、サイズ感を把握したりできます。また、スタッフから説明を受けられるなど、店舗で購入するのと同様の接客を受けられるのも特徴です。
DXに取り組む際に小売業が対策すべきポイントとは
ポイント① 経営戦略の突き詰め・連動
DXとは目標を達成する手段であり、DXの導入自体が目標にはなりませんので注意しましょう。
DXを導入する際は経営戦略を見直し、経営戦略に基づいてどのようなことを達成したいのか必ず明確にしておきましょう。経営戦略に連動するかたちでDXを導入することで、導入に関する失敗を回避できます。
ポイント② DX推進人材の確保・育成
DXを推進するにはDX人材の確保・育成が不可欠です。小売業界は社内にデジタルやITに精通した人材がいないことも珍しくありません。DXの導入のみであればアウトソーシングで構いませんが、DXで成果を出すためには常駐した人材の確保が必要です。そして、デジタル施策の検討から運用、さらには課題の洗い出しまでを行わなければなりません。
日本ではIT人材の不足が問題となっており、需要と供給が一致していない状況です。そのため、IT人材を新たに雇い入れることだけでなく、自社での育成も視野に入れる必要があります。
ポイント③ 既存のシステムとの連携・共存
小売業がDXで成果を出すには、ビジネスに新しいデジタル技術やデジタルツールを導入するだけでなく、既存システムとの連携や共存を検討する必要があります。
既存システムには長年におよんで蓄積された顧客情報や販売情報が大量に蓄積されています。新システムの導入後もこれらの資源をいかにして活かせるか検討しなければなりません。
小売業界のDX導入ならSMSの活用がおすすめ
小売業界のDXを推進する上で、見落とされがちながらも極めて効果的なのがSMSの活用です。SMSは単なる連絡ツールに留まらず、ここまで解説してきたDX戦略を力強く後押しします。
- OMO(Online Merges with Offline)の深化: 店舗で接客したお客様に、パーソナライズされたセールの案内やECサイトの限定クーポンを後日SMSで送信。オフラインの体験をオンラインの購買に繋げ、顧客エンゲージメントを高めます。
- 店舗運営の圧倒的な効率化: お客様への入荷連絡や予約リマインドを自動化し、スタッフが電話対応に費やしていた時間を接客などのコア業務に集中させることができます。電話の「言った・言わない」問題を防ぎ、確実な情報伝達を実現します。
- データドリブンな施策の実現: 送信したSMSに短縮URLを記載すれば、どのメッセージがクリックされたかを計測できます。これにより、キャンペーンの効果測定や顧客の興味関心の分析が可能になり、次の施策に活かすことができます。
このように、SMSは顧客接点の強化から業務効率化、データ活用まで、小売業界のDXが目指す多角的な価値創出に直接貢献するポテンシャルを秘めています。
法人向けSMS送信サービスなら「KDDI Message Cast」

お客様への予約確認や入荷連絡など、確実かつスムーズなコミュニケーションが求められる小売業界。その課題解決の切り札としておすすめしたいのが、KDDIグループが提供する法人向けSMS送信サービス「KDDI Message Cast」です。
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この機会に、お客様とのコミュニケーションを次のステージへと進化させてみませんか。
まとめ

近年、小売業が抱える課題は深刻なものです。物価高や人手不足、競争の激化など、多くの企業が厳しい経営環境に直面しています。小売業がこうしたニューノーマルな時代に対応していくためには、DX推進など新たな試みが必要です。
本記事で解説したように小売業界に導入できるDXにはさまざまな種類のものがありますが、SMSの活用もおすすめです。SMSを活用することで、お客様との連絡がスムーズに取れるようになり、顧客満足度の向上につながるでしょう。
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